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2015年3月31日火曜日

劇団民藝『冬の時代』公演-労農派を描いた舞台

堺利彦、山川均ら労農派の人々を描いた木下順二作『冬の時代』が初演以来50年ぶりに劇団民藝で再演されます。大逆事件で幸徳秋水らが処刑された後、売文社を組織して“冬の時代”を生き抜き「小さな旗あげ」に至るまでの堺利彦らの苦闘を描いた作品です。
初演時の評価は高かったのですが、なぜかその後再演されませんでした。


今回の主な上演情報は次の通りです。


作=木下順二 演出=丹野郁弓
2015年4月16日(木)~28日(火)
紀伊國屋サザンシアター(新宿駅南口下車)
キャスト
渋六……千葉茂則
奥方……日色ともゑ
飄風……和田啓作
ショー……塩田泰久
ノギ……吉岡扶敏
不敬漢……平松敬綱
文学士……天津民生
デブ……山本哲也
キリスト……齊藤恵太
二銭玉……武藤兼治
お婆さん……箕浦康子
奉公会……伊藤 聡
小僧……平野 尚
角袖……土井保宜
テの字(のちに、コの字)……新澤 泉
エンマ……飯野 遠
入場料
一般 6300円、夜公演4200円。
http://www.gekidanmingei.co.jp/2015fuyunojidai.html


*労働者運動資料室を通すと5700円の前売り券が入手できます。必要な方はお電話ください。佐藤礼二扱い(03-5226-8822)







2015年3月15日日曜日

労農派の歴史研究会第168回例会報告

 
テキスト・・『覇権経済のゆくえ』(飯田啓輔、中公新書)第一章


覇権と言うと、強いものが全体を牛耳るというイメージがわくと思います、事実、実質
はそのとおりなのですが、鰹済のいろいろな面には、それぞれに国際機関があり、一定の
ルールに基づいて、人がその期間を動かします。商品の生産、販売に強くても、それらの
期間を上手に動かす人材を育てないと、経済の秩序は保てませんし、覇権を握っていると
いう評価にはなりません。


 この本では、通商、通貨、金融、開発の四つの分野について、統括する機構を見ていま
す。全体として現在、「アメリカの覇権が衰えつつある状態である」ということは、多くの
人が一致していますが、それぞれの分野ごとに見るとどうなのか。日常的には、なかなか
そこまでは、分析できません。この著者は、アメリカの力の衰え、二番手、三番手の成長
ぶりを見ながら、-一応の評価をしています。


 経済力がつけば、政治(優れた政治家や官吏の育成)にも有利ですし、軍事力の強化に
もつながります。アメリカの圧倒的な力は、圧倒的な経済力に裏付けられていました。こ
れからは、第二次大戦後のアメリカのような圧飼的な力をもつ国家は、なかなか現れない
でしょうが、そこに近づく国はでて来ます。中国がそうなるかどうか、この著者は疑問符
をつけています。


 覇権国にならなくても、経済の国際的な機構を動かす人材を多く育てることは、それぞ
れの国にも有利になることですから、日本がそのための取り組みを強めることも、無駄で
はないと思います。いずれにしても、国際経済を動かす際に必要な諸機構の役割を知り、
そこで役に立つような知識の地区制、人材の育成には、ちゃんと予算を配分しておいたほ
うが良いのではないかと思われます。

2015年3月7日土曜日

2014年度山川菊栄賞推薦の言葉

●平井和子『日本占領とジェンダー』推薦の言葉
 女性史が女性の痛覚に根ざすものだとすれば、日本の女性史研究には大きな欠落があった。もっとも痛苦にみちた売買春問題について、当事者女性の目線にたった研究が極めて少ないからである。それは日本近代における<生殖=母性>と<快楽=娼婦>という女性の分断を、研究者自身も内面化していたからではないだろうか。
 本書において著者は、揺るぎないジェンダー視点に立つことでその分断を乗り越え、占領下の「パンパン」や基地売春を検証している。その結果本書は、日本女性史の欠落を埋めるだけでなく、歴史認識の問い直しをも迫るものとなっている。
 その1つは日本占領の評価である。これまでアメリカの占領政策は日本の「民主化」「女性解放」への意義を評価されてきた。しかし著者は、占領軍の性政策が戦力維持のための性病コントロールを中心とし、暴力的な女性の刈り込み等がくり返されていたことを明らかにする。「女性解放」はこうした女性の犠牲の上に成り立っていたともいえるのだ。
 こうした歴史認識の問い直しは現在的な問題でもある。現在の「イスラム国」問題は21世紀に入ってのアメリカのイラク攻撃に端を発するが、著者が言うように、それは日本占領を「民主化」成功のモデルとしてなされたのだ。著者の歴史をみる姿勢には、つねにアクチュアルな視点が貫かれている。
 第2に、売春防止法体制の問い直しである。占領軍の性政策には、日本の女性リーダーたちもかかわっていた。彼女たちは「パンパン」取締りを推進する一方、米兵のための「母の家」設置につとめるものもいた。ここには<母性>による<娼婦>差別がある。それは1956年制定の売春防止法にも貫かれ、現在も生きている。本書には売春防止法改正案が具体的に提起されている。
 3つ目は「慰安婦」問題における日本特殊性論の否定である。これには危険がつきまとう。橋下発言にみられるように、軍隊の性問題は日本だけではないとして「慰安婦」問題を否定する声が高まっているからだ。もちろん著者はそうした声には与しない。彼らが前提とする本質主義的な男性性欲論を「神話」として否定し、「軍隊と性暴力」問題としてグローバルな視野で検討することを提起している。
 いずれも論議を呼ぶ提起だが、研究方法はあくまで緻密な実証主義にもとづいており、説得力をもつ。かといって冷たいアカデミズム歴史学に堕しているわけではない。当事者女性との直接的な出会いはないものの、周辺からの聞き取りなどにより、痛苦な日常をたくましく生きる女性の姿も浮かび上がる。
 著者はシンシア・エンローによって、女同士の分断こそが軍隊を支えるという。本書が売春や「慰安婦」問題における二項対立を解きほぐし、新しい地平を開くことを願う。
(加納実紀代)

●推薦の言葉 『中絶技術とリプロダクティブ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から』
                       

塚原久美さんの本は、中絶をめぐる問題にフェミニスト倫理の視点からアプローチする屈指の研究書です。私はこの本を読んで、自分の認識不足を恥じ、塚原さんの誠実な研究姿勢と明晰な分析力に深く感動しました。この本を読むまでは、中絶問題は論じ尽くされたかの感があり、「胎児の生命」対「女性の権利」という二項対立の問いの構図を避けられないものと思っていました。塚原さんは、本書を通じて、この問い自体が、中絶を受けている女性たちの現実の姿や中絶医療の実態を考慮しない抽象論だということを、説得力をもって立証しています。
日本の女性は「安易に」中絶をしているかのように言われてきました。しかし、日本の中絶医療は、リスクの低い吸引中絶(VA)や内科的中絶(MA)ではなく、D&Cやサリン法など「危険な中絶手術」が圧倒的多数で、「ガラパゴス化」しています。それというのも刑法に堕胎罪があり、唯一、母体保護法において指定された医師のみが中絶医療を独占的に実施することを許されてきたからです。塚原さんは、指定医らの都合のみが優先され、女性ケアの観点を軽視した中絶医療が改善されずに長年用いられてきた実態と、この医療分野の遅れを支えてきた法制度上の問題点を、あざやかに描き出しました。
フェミニスト倫理の視点からは、女性たち自ら意思決定しうる「エンタイトルメント意識」が重要ですが、現実には、堕胎罪と母体保護法のダブルスタンダードによって、産む責任を女性に負わせながら、「堕ろす」ことが断罪されてきました。女性たちはスティグマにまみれた中絶に関して「権利」を主張しにくくなり、母体保護法改正反対運動も「実質的な中絶の自由」という最小公約数の要求で法改正を阻止するのみに留まってきたのです。塚原さんは、これに対して、安全な方法でパラメディカルに中絶処置を移行させ、国際的に推奨されている方法を導入することは急務だと指摘します。法的にも、刑法堕胎罪を廃止し、女性自身を罰する条項を削除し、母体保護法に身体的健康上の理由のみならず精神的健康上の理由も加え、経済条項削除の代わりに妊娠初期の中絶を女性の要求に基づき認める条文を追加し、配偶者の同意権要件を削除すべきという構想を示します。
 「国家による出産強制」である刑法堕胎罪が廃止されなかった要因は、「胎児対女性」の二項対立論にとらわれてきた従来の中絶論にもあり、これが「中絶を受ける女性は罪深く身勝手」だという見方を広めてきました。そして実は、リブ時代を生きてきた女性たちも、生命倫理学の研究も、この枠組みから抜け出せなかったのではないか。このような塚原さんの指摘は、圧巻です。私たちはそこから脱却するためにも、中絶を受けている女性の現実や中絶医療の実態に目を向ける必要があるのです。
              (浅倉むつ子 山川菊栄記念会選考委員)

2015年3月6日金曜日

2014年度山川菊栄賞授賞式報告

労働者運動資料室中村ひろ子理事より、2014年度(第34回)山川菊栄賞受賞式報告が届きましたので掲載します。文中にもあるように、山川菊栄賞は今回で終了です。
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2月28日(土)午後、東京神田の韓国YMCAで、第34回山川賞の贈呈式が行われた。最後となる今回の対象者は、平井和子さんと塚原久美さんのお二人である。


平井さんのご本は『日本占領とジェンダー―米軍・売買春と日本女性たち』(有志舎、2014年8月刊)。
加納実紀代さんの推薦の言葉を借りれば、「女性史が女性の痛覚に根差すものだとすれば、日本の女性史研究には大きな欠落があった。もっとも痛苦に満ちた売買春問題について、当事者女性の目線に沿った研究が極めて少ないからである。それは日本近代における<生殖=母性>と<快楽=娼婦>という女性の分断を研究者自身も内面化していたからではないだろうか。本書において著者は、揺るぎないジェンダー視点に立ってその分断を乗り越え、占領下の『パンパン』や基地売春を検証している。その結果本書は、日本女性史の欠落を埋めるだけでなく、歴史認識の問い直しを迫るものとなっている」という画期的なもののようだ。

平井さんの記念スピーチは「日本占領から問う『軍隊と性暴力』の共生関係」というテーマ設定だったが、その研究に至るまでの、平井さんの個人史が圧倒されるものであった。大学では地理を専攻し、地球儀を眺めていれば幸せだったので、地盤整備の会社に就職。仕事が面白くのめり込んで、ロッカーに風呂道具を用意していたほど。あまりに多忙で一度仕事から離れたかったのもあり、夫の郷里、静岡に転居。そこで押し付けられた嫁の役割に疑問を持ち、歴史を学ぼうと、大学院に。アルバイトの際見つけた御殿場町の売買春の実態を記した資料に触発され、研究を開始。同じ資料を男子学生は見過ごしたことも衝撃であり、自分の視点が定まったという。その後の研究の経過もいろいろ話されたが、対象作は15年間の集大成で、博士論文として書かれたものだという。疑問に思ったらすぐに研究に着手され、成果を蓄積されてきた、そのバイタリティのままに話されて、あっという間に時間が過ぎていた。


もう一方の塚原さんのご本は『中絶技術とリプロダクティブ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房、2014年3月刊)。

浅倉むつ子さんが「日本の中絶医療は、リスクの低い吸引中絶(VA)や内科的中絶(MA)ではなく、D&Cやサリン法など『危険な中絶手術』が圧倒的多数で、『ガラパゴス化』しています。それというのも刑法に堕胎罪があり、唯一、母体保護法において指定された医師のみが中絶医療を独占的に実施することを許されてきたからです。塚原さんは、指定医らの都合のみが優先され、女性ケアの観点を軽視した中絶医療が改善されずに長年用いられてきた実態と、この医療分野の遅れを支えてきた法制度上の問題点を、あざやかに描き出しました」と絶賛されている。

記念スピーチ「中絶のスティグマを超えてー中絶問題と日本のフェミニズム」も、塚原さんの個人史を展開された。ご本人からの手記をいずれ『社会主義』に掲載するので、詳細はそれに譲りたいが、「人生を充実させよう」「死ぬ瞬間に満足していたい」という姿勢には圧倒された。翻訳を仕事とする中で出会った中絶に関係する文献を追いかけ続けて、これだけの大著にまとめあげられたのである。そしてそれは産婦人科学会で報告されるほどの、学識に裏打ちされているのだが、これから先の改革は医療者が取り組むことであり、自分は中絶した女性たちのフォロー、メンタルヘルスをやりたいと心理学の大学院に入りなおし研究をされている。またその方面での研究成果が楽しみだと思ったのは私だけではないだろう。


さて、私、中村は、今回、以下のような事情で、受賞作品を事前に入手し、目を通していなかったことをお詫びしたい(このところの受賞作は大作のため、読んでも理解したと言えないものが多かったのだが…)。
山川菊栄記念会を設立した田中寿美子さんが亡くなって20年、命日の3月15日にブックトークを開催する。そのブック、井上輝子監修『田中寿美子の足跡―20世紀を駆け抜けたフェミニスト』(女性会議発行)を先日ようやく刊行することができた。本務の合間の編集に追われた4ヵ月だったが、監修の井上輝子さんは自ら執筆する傍ら、他の執筆者の原稿を読み、アドバイスされ、資料検索もされ、その合間に、この山川賞の選考に携わられていたのだから、頭が下がる。

なお、田中さんの足跡の一つに、売春防止の取り組みがあるが、今回の受賞者平井さんが、田中さんの労働省婦人少年局婦人課長時代のメモ資料を発掘され、関東学院大学図書館の厚意で、それに基づいて足跡をたどってくださっていることも付け加えておきたい。
いずれにせよ、山川賞の最後を飾るにふさわしい研究書であり、贈呈式だった。お二人とも、山川菊栄賞は目標だった、これまでの受賞作品に触発されて長年研究を続けてきたと話され、自分たちの研究成果のご本が、「最後に間に合った」と喜んでおられた。


でも、お二人のように、目標にされていた方は他にもおられたことだろう、というのが頭をよぎったのも事実であり、残念だとも感じています。

選考委員の皆さん、ほんとうに長い間ご苦労様でした。これからは選考委員会ではなく、山川菊栄記念会として、顕彰活動を続けていくことになっています。それらも随時報告していければと思っています。

2015年3月5日木曜日

2014年度山川菊栄賞選考経過報告


2014年度山川菊栄賞選考経過の報告

                        2015228

                               井上輝子

 

すでにお知らせしてありますように、今日は山川菊栄記念婦人問題奨励金(通称山川菊栄賞)の最後の贈呈式となります。山川賞の選考を打ち切るに至った事情や、今後の山川菊栄記念会のあり方等については、この会の最後にやや詳しくお話することにして、今は今年度第34回山川賞の選考経過についてお話したいと思います。


今回は、20138月から20148月までの期間に刊行された著作物を対象として、昨年8月に、各種新聞に掲載を依頼すると共に、ハガキ送付やメーリングリストなどを通じて、広く推薦作品を募集しました。その結果、別刷リストにありますように、自薦・他薦を含め、45点の作品をご推薦いただきました。


このリストを基に、記念会では昨年923日と111日の2回にわたって選考委員会を開催し、慎重審議の結果、平井和子さんの『日本占領とジェンダー―米軍・売買春と日本女性たち』と、塚原久美さんの『中絶技術とリプロダクティダクティヴ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から』の2作品に、今年度の奨励金をさしあげることに決定しました。決定に至るまでの選考委員会での議論の経過と、今年度の推薦作品の傾向、また特に注目された、いくつかの作品について、ここで簡単にご紹介させていただきます。


リストにありますように、今年度も多方面な分野の、しかもレベルの高い研究が数多く寄せられました。中でも例年になく今年度目立った研究領域を、2つほど紹介したいと思います。1つは、女性の性と生殖に関わる領域の研究が多かったことです。奨励金をさしあげるお二人の研究もそうですが、ほかにも15.小浜正子・松岡悦子編『アジアの出産と家族計画-「産む・産まない・産めない」身体をめぐる政治』、16荻野美穂『女のからだ―フェミニズム以後』、21角田由紀子『性と法律―変わったこと、変えたいこと』、また12非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ+長沖暁子『AIDで生まれるということ』も、この領域の作品に入れてよいと思います。


第2の領域として、セクシュアル・マイノリティ問題の研究があります。5三部倫子『カムアウトする親子―同性愛と家族の社会学』、11Gay Japan News 共同代表 山下梓『レズビアン・バイセクシュアル女性、トランスジェンダーの人々からみた暴力―性的指向・性別自認・性別表現を理由とした暴力の経験に関する50人のLBTへのインタビューから』、22クレア・マリー『「おネエことば」論』などがあります。また23大越愛子・倉橋耕平編『ジェンダーとセクシュアリティ―現代社会に育つまなざし』は、今挙げた2つの領域にまたがる論文集です。


このほか、例年同様、歴史分野の作品も数多く推薦されました。平井さんの作品もそうですが、6関口すみ子『菅野スガ再考―婦人矯風会から大逆事件へ』は、菅野スガのイメージが、男を惑わす「妖婦」として仕立て上げられていった過程を明らかにしたすぐれた言説分析です。同じ著者による7『良妻賢母主義から外れた人々』、8伊藤セツ『クラーラ・ツエトキン―ジェンダー平等と反戦の生涯』も、歴史研究です。18榊原千鶴『烈女伝-勇気をくれる明治の8人』は、山川菊栄の母青山千世に始まり、山川菊栄に終わる興味深い人選です。19伍賀偕子『敗戦直後を切り拓いた働く女性たち―『勤労婦人聯盟』と「きらく会」の絆』は、戦後の女性組合運動の貴重な記録です。その他、28進藤久美子『市川房枝と「大東亜戦争」』、29吉良智子『戦争と女性画家―もうひとつの近代美術』、30加藤千香子『近代日本の国民統合とジェンダー』、32松村由利子『お嬢さん、空を飛ぶ』、34松原宏之『虫喰う近代―1910年代社会衛生運動とアメリカの政治文化』、38森杲(たかし)『アメリカ<主婦>の仕事史』、39大森真紀『世紀転換期の女性労働』、43三成美保・姫岡とし子・小浜正子『歴史を読み替える―ジェンダーから見た世界史』、44安川寿之輔『福沢諭吉の教育論と女性論』など、歴史研究が数多くノミネートされました。


このほか、選考委員会で話題になった作品として、2園部裕子『フランスの西アフリカ出身移住女性の日常的実践―社会・文化的仲介による「自立」と「連帯」の位相』、これはフランスの旧植民地西アフリカ出身の移民女性たちのライフヒストリーと参与観察に基づく精緻な研究で、最近のフランスにおけるモスレム差別の問題などを考える上で、参考になる本です。また、3すぎむらなおみ『養護教諭の社会学―学校文化・ジェンダー・同化』は、経験的に多くの養護教諭が感じてきた、学校の中での被差別体験や学校の中での微妙な地位を読み解いた作品です。


さらに今年度特筆しておきたいのは、24高良留美子『世紀を超えるいのちの旅―循環し再生する文明へ』、45堀場清子『鱗片 ヒロシマとフクシマと』など、フェミニズムの大先輩たちが、新たに素晴らしい本を刊行されたことです。

この調子で紹介していくと、なかなか贈呈作品に行きつかないので、先を急ぎますが、いかに多様な素晴らしい作品が昨年度刊行されたかということがわかっていただけると思います。45点の作品の中から、第1回選考委員会では、
4平井和子さん、14塚原久美さん、29吉良智子さんの3作品について、第2回の選考委員会で詳しく検討することにしました。なお、言い忘れましたが、作品番号は、推薦が届いた順番にナンバーをつけたもので、評価とは関係ありません。これからお話いただくお二人の順番も、この作品番号の順にお願いしてありますので、念のため。



吉良さんの作品は、従来ほとんど知られていなかった、近代日本の女性画家たちの足跡をたどり、日本の美術史をジェンダー視点で読み解いた労作です。戦争中、女性画家も「女流美術奉公隊」を結成して戦争に協力しましたが、その総力を結集して描き上げた巨大な「大東亜戦皇国婦女皆働之図」を詳しく分析しています。とても興味深い本ですので、美術史に関心のある方には、ぜひ一読を薦めたいと思います。この作品で、吉良さんは、第29回青山なお賞を受賞されたと聞いています。


吉良さんの作品も、新しい分野に挑戦した価値あるご研究だと思いますが、選考委員会では、今日おいでくださっている4平井和子さんの『日本占領とジェンダー』と、12塚原久美さんの『中絶技術とリプロダクティダクティヴ・ライツ』の2作品に、今年度の奨励金をさしあげることに決定しました。お二人の作品については、この後、加納さんと浅倉さんから、それぞれ詳しい推薦の言葉がありますので、私の方からは、ごく簡単に、2作品の内容を紹介させていただいて、選考経過の報告を終わりにしたいと思います。


 平井さんのご本は、敗戦後の占領軍向けの「慰安所」と米軍基地売春の実態を、膨大な史料や聞き取り調査に基いて詳しく分析した研究です。特に、米軍によって接収された東富士演習場近くの御殿場をフィールドとした、地方都市における、行政・業者・警察・地元民と「パンパン」との関係の具体的描写は圧巻です。平井さんは、日米合作で、被占領女性への徹底した性管理と性病対策等がなされた事実を明らかにする一方で、1956年成立の売春防止法制定過程や売春防止法の枠組みに批判的なメスを入れておいでです。


 塚原さんのご本は、1970年代以後の中絶技術の進展によって、欧米諸国ではすでに
妊娠初期の中絶方法として、吸引と中絶薬が一般化しているにもかかわらず、日本では今でも拡張掻爬術が主な中絶手段となっているという衝撃的な事実を紹介した意欲的な作品です。塚原さんは、日本における「遅れた技術」が、中絶の残虐性イメージや中絶罪悪視の原因となっており、刑法堕胎罪の規程を補完していることを指摘し、現行法体制の抜本的改革と、当事者である女性たち自身の中絶についてのフェミニスト倫理の構築を訴えておいでです。


 お二人とも、女性の身体やセクシュアリティの権利と健康に迫るテーマで、今私たちが考えるべき課題を提起しておいでです。ぜひ多くの皆さんに読んでいただきたいと思います。お二人のスピーチの後、会場の皆さんを含め、お二人の話に対する感想や、女性の身体やセクシュアリティをめぐって、取り組むべき課題などについて、活発な討論ができればうれしく思います。


平井さん、塚原さん、おめでとうございます。

2015年3月1日日曜日

『社会主義』2015年3月号目次

一冊600円。紀伊國屋書店新宿本店、東京堂書店、大阪・清風堂書店で販売中。社会主義協会でも取り扱っています。


横田昌三■新自由主義的自治体再編狙う「地方創生」


特集 「没後30年 向坂逸郎の思想に学ぶ」(下)
松永裕方■構造改革論争と「日本における社会主義への道」
佐藤保■社会主義協会の労働者運動強化と「協会規制」
山崎耕一郎■向坂逸郎の統一戦線論
小島恒久・和気誠ほか■座談会   向坂逸郎の思想とは何か その実践と思い出を語る


坂本聡■松戸市議選(中間選挙)をたたかって
村上すすむ■震災復興の現状と課題
宮崎正利■塙町木質バイオマス発電施設計画白紙撤回の闘い
角田政志■原発事故と子どもたちの生活、教育、健康
仲田信雄■政策失敗とり繕う大規模予算 2015年度予算の特徴
川上登■2015年度地方財政の課題