2011年6月17日金曜日

紹介 『解題マルクスの学説と三つの源泉』


マルクス主義理論研究会編
解題マルクスの学説と三つの源泉『マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分』
山崎耕一郎・川村訓史・善明建一著
2011年5月24日 第1刷発行
定価 1000円+税

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発刊にあたって
 ここ数年、マルクスの『資本論』に関する著書が、書店の新刊コーナに並べられて、売れ行きは良いようである。そのタイトルは「超訳『資本論』」、「マルクスだったらこう考える」、「超人門『資本論』」、「マルクスのかじり方」、「高校生からわかる『資本論』」など様々であるが、その内容はマルクスは何をした人か、から『資本論』第一巻のエキス部分を取り上げ、解説したものなど幅が広い。その著者たちの意図で共通していることは、最近、マルクスに関心を持ちはじめた人、かつて関心を持っていた人に対する『資本論』の学習の薦めである。
 ソ連・東欧社会主義が崩壊してから二〇年が経過するが、「社会主義世界体制」の崩壊は、日本の労働者運動にも強い影響をもたらし、大衆的には社会主義を主張することさえ「自粛」させられるまでに後退したことは否定できない。
 だが二〇〇八年秋のリーマンショックを契機に発生した世界金融恐慌は、資本主義とは何かを多くの労働者に考えさせるようになっている。将来を担う若者は、学校を出ても多くの人が正社員として就職できず、ワーキングプアといわれる非正規労働者で雇用されるしかない。景気が回復し、企業の業績が上がっても、賃金はあがらず、長時間労働で過労死、うつ病など精神疾患、健康破壊、そして、失業者の増大は止まらず、生活苦による生活保護世帯は増え、また自殺者の増大など、労働者の生活の不安定さは増大している。
 少子高齢化社会の到来で、年金、介護などの社会福祉が切り下げられ、公的機関のサービス切り捨てで、地方の疲弊も著しく、老後の生活不安は増大する一途である。こうした国民生活・労働者状態の悪化は、「あくなき利潤」を求めてやまない独占資本の体制的合理化の結果であり、誰もがこうした社会、そして資本主義の剥き出しの姿に疑問を持ち始めている。
 かつては、労働組合でマルクス経済学を中心とした学習会が組織され、労働者としての物の見方、考え方を確立していくことが重視されていたが、この二〇年は、すっかりその様相は変わってしまったと指摘されてから久しいものがある。
 だが最近は、われわれの実践の中でも学校を出て新人社員となって働きはじめた人、そして入社して三~四年経った人などの中に、学習会に参加してみたいという人が増えていることを実感できるようになっている。本書は、そうした労働者の中に生れている前向きな気運に後押しされて、企画され、発刊したものである。
 マルクス、すなわちマルクス主義を学ぶためには、『資本論』を外に置いてはないのであるが、それは将来、挑戦していただくことにして、本書では「マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分」(レーニン著)、すなわち、ドイツの古典哲学、イギリスの古典経済学、フランスの社会主義思想を取り上げて、マルクス主義とは何か、マルクス主義1科学的社会主義はどのようにして成立したかを「解題」したものである。
 もちろん、本書はその「解題」にすぎない。マルクス主義=科学的社会主義を本格的に学習するには、『共産党宣言』、『空想より科学へ』、『賃労働と資本』、『賃金、価格および利潤』、『フォイエルバッハ論』などの古典を使った学習会でマルクス主義の基礎理論を身につけてほしい。
 そういう意味で本書は、それらを学習していくための事前準備、整理をしたという位置づけになるものである。
 そこであえて強調しておきたいことは、われわれの学習は独習が基本であるということである。その上で仲間との組織的な学習会が必要である。その逆でも構わないが、どちらにしても独習が基本である。独習を補い、よりマルクス主義理論と思想の理解を深めるために仲間との組織的な学習、交流が必要なのである。
 本書の発刊を契機にマルクス、エングルスなどの古典学習会が、全国で無数に組織されることを期待するものである。そのことが結局、マルクス主義の現代的意義、そして今日の労働者運動の実践的活動についての確信を広げることになると考えるからである。
                                                                  二〇一一年五月
                                                          マルクス主義理論研究会
                                                                               
目次
発刊にあたって
マルクスの学説と三つの源泉
 「マルクス主義の三つの源泉と三つの構成部分」
   はじめに
第一章 唯物史観の確立とマルクスの定式
第一節 百科全書派の闘いと唯物論
― 中世までは観念論が支配的
2 「百科全書派」の活動が力関係を変えた
3 妥協せずに科学的知識を広めた
第二節 ヘーゲルによる弁証法的な歴史観
1 苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)、贅沢と浪費
2 「総括された歴史」を説いたヘーゲル
3 矛盾に基づく発展の理論
4 ヘーゲルはなぜ労働者農民が立ち上がるかを理解できない
5 西欧では『対立物との共存』は当たり前
第三節 フォイエルバッハとカントについて
 1 宗教は人間が自己自身と分裂したもの
 2 カント対ヘーゲル
 3 理性を疑うことは必要
 4 カントも読んでみよう
第四節 弁証法の法則、ヘーゲルとエングルス
 1 エングルスが整理した弁証法の三法則
 2 量から質への急転換、その逆
 3 対立物の相互浸透
 4 否定の否定
 5 図式主義は弁証法の敵
第五節 『共産党宣言』第一章
 1 世界に発した革命の宣言
 2 書かれた歴史はすべて階級闘争の歴史
 3 ブルジョア階級の革命的役割
 4 ソ連・東欧社会主義が崩壊しても階級闘争
第六節 マルクスの史的唯物論の要約
 1 マルクスによる史的唯物論の要約
 2 社会の発達は物質的生産力の発展段階に対応する
 3 生産諸条件の物質的変革と上部構造の変革
 4 現在の日本は上部構造の変革が遅れている
 5 資本主義は社会的生産過程の最後の敵対的形態
第七節 資本主義も社会主義もワンパターンではない
 1 各国どこも歴史の上に現在がある
 2 少数の占領者による暴力的支配でスタート
 3 異民族、異論を持つ人々との共存の経験
 4 現在の日本は上部構造の進化が遅れている
 5 過去の社会主義も建設を画一化して失敗
 6 新自由主義による画一化も失敗
 7 冷戦の「勝者」の側も随所で崩れている
 8 「否定の否定」は起こるのか
第二章 古典派経済学とマルクス経済学
第一節 マルクスの経済学研究
 1 マルクスが経済学を研究した理由
 2 経済学の役割
第二節 古典派経済学
 1 古典派経済学とは
 2 古典派経済学とマルクス
 3 古典派経済学の創始者
   《ウイリアム・ペティ(一六二三上六八七年)》
 4 重農学派
   《フランソワ・ケネー(一六九四大七四四年)》
 5 イギリス古典派経済学
 (1) アダムースミス(一七二三~一七九〇年)
 (2) デビッドーリカード(一七七二~一八二三)
第三節 資本主義的生産様式の法則性を明らかにした 『資本論』
  1 『資本論』が明らかにしたこと
  2 『資本論』で分析された資本主義的生産様式とは
  3 『資本論』の構成
  (1)第一巻で明らかにされること
  (2)第二巻で明らかにされること
  (3)第三巻で明らかにされること
  (4)全巻を読もう
第四節 剰余価値学説はマルクス主義の土台
 1 資本主義的生産の目的は価値増殖
 2 価値増殖の秘密
 3 労働力の価値はどのように決まるか
第五節 資本蓄積がもたらすもの
1 生産は継続し、拡大されなければならない
2 拡大再生産によって生じる変化
 (1) 所有と労働が分離する
 (2)資本の蓄積と労働力に対する需要の関係
 (3) 生産性の発展による労働力の削減
3 資本の運動の調整弁としての相対的過剰人口
4 資本主義的生産と恐慌
第六節 資本主義的蓄積の一般的法則と労働者の闘い
1 資本主義的蓄積の一般的法則とは
2 マルクスの真意は
3 窮乏化法則の作用と反作用
4 『資本論』における賃労働と資本の関係と、その現象形態
5 窮乏化の原因をどう具体的に明らかにするのか
6 窮乏化法則への自然発生的な抵抗は
第七節 公務員労働者はどのように搾取されているか
 I あらためて搾取とは何かを考える
 2 労働が生産物に結実しない労働者はどのように搾取されるか
 3 公務員労働者の労働はどのような役割を果たしているか
 4 公務員労働者も搾取されている
第八節 賃金闘争の意義
   1 賃金は自動的には決まらない
   2 なぜ資本は賃金を削減しようとするのか
    (1)競争の激化によるコスト削減競争
    (2)利潤率が低下する
    (3)賃金削減によって利益をだす
   3 賃上げで社会・経済を建て直す
第三章 空想的社会主義と科学的社会主義
 第一節 三人の偉大な空想的社会主義者
  I 空想的社会主義
  (1)サン・シモン(一七六〇~一八二五年)
  (2)フーリエ(一七二二~一八三七年)
  (3)ロバートーオーエン(一七七一~一八五八年)
2 空想的社会主義者の限界性
第二節 資本主義の発展と科学的社会主義の道
1 科学的社会主義
2 労働者階級の火態が社会運助の地盤であり出発点である
3 階級闘争の正体は剰余価値
4 生産力と生産関係の矛盾で社会は発展する
5 資本主義社会で周期的に発生する恐慌
6 資本主義の胎内に社会主義の物質的条件を準備する
 (1)労働者階級の歴史的使命
 (2) 自由の王国への人類の飛躍
第三節 労働者階級と平和革命の展望
 1 プロレタリアート独裁の本質
 2 平和革命と労働者階級の役割
 3 反独占統一戦線運動と連立政権
   (1) 反独占統一戦線の性格
   (2)新自由主義と闘う政治勢力の結集
第四節 社会主義は資本主義に負けたのか
I ソ連・東欧社会主義崩壊の総括を
2 資本主義は人類最後の体制ではない

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